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堀江貴文序文、監修、パーミー・オルソン著、竹内薫譯『我々はアノニマス』ヒカルランド、平成二十五年

かつての時代の寵児堀江貴文の新刊、『ゼロ』(ダイヤモンド社)が出たといふことで、『我々はアノニマス』を買つてきた。

我々はアノニマス 天才ハッカー集団の正体とサイバー攻撃の内幕

我々はアノニマス 天才ハッカー集団の正体とサイバー攻撃の内幕

『ゼロ』は買ひませんでした。

題名にある「アノニマス」といへば国際的ハッカー集團として超有名。原著Parmy Olson"We are Anonymous"は去年出版され、「アノニマス」の實態を暴いたといふことで話題になつたと言ふ。私は普段から日本のネット掲示板に親しんでゐる。そこで、アノニマス文化の素となつた日本のネット掲示板文化の解説があるに違ひない、と二千百圓もお金を拂つて、本書を手にとつたのだつた。

さて本書のページをまづ開くと、冒頭にかうある。監修者、堀江貴文の序文 (p1)である。

アノニマスを生んだ母体は「4チャン」(4chan)という英語圏のインターネット掲示板であるという。

これはアノニマスの説明としてよく紹介されることだと思ふ。特に疑問はない。かう續く

創始者クリストファー・プールは「2ちゃんねる」に大きな影響を受け、同じようなネットサービスを目指して「4チャン」を立ち上げた。

ここに知らないことネットの歴史が書いてある。といふか本書はその冒頭から大きな誤謬があつたのだつた。さらにかう書かれてゐる。

「2ちゃん」と「4チャン」の違いは何かと聞かれてプールは、「そりゃあ、2ちゃんねるの2倍すげーってことさ」と答えた、と本書は言う。

何これ何のはなし。

ここから堀江は2ちゃんねるの印象を語る。曰く、2ちゃんねるで俺は叩かれたものだ、と。2ちゃんねるといふのはなんと陰濕なのだ、と。「人間には(…)ダークな部分がある。人を妬み、憎み、陰口や悪口を言い、誹謗中傷を行い、「正義」の立場から人を攻撃したい、といった欲望があるのだ。そのダークな部分の集積が2ちゃんねるである。」(p2)たくさんある2ちゃんねるの板のある一部のことを指して言つてるんぢやないか、とも思ふのだが、それは置いておいて、さういつた2ちゃんねるアノニマスの共通する部分として、堀江は二點を擧げる。「個人の素性を暴いて攻撃したり、正義の名のもとに誰かを叩いて楽しむといった嗜好」と「「嫌儲」思想―経済的な利益をあげること自体を罪悪とみなす思想―」である。そして、堀江は、この二點ともに賛同できないと言ふ。

だが、かういつた論は、そもそも「4chan」が「2ちゃんねる」を元に生まれたといふ誤りから出發してゐるのだから、ほぼ全て無意味である。この序文から見ても本書監修者堀江貴文は、本書のみから4chan の情報を得てゐるのは明白であり(文末が「という」や「本書は言う」とあることにも表れてゐるだらうか)、また、アメリカのネット文化にも日本のネット文化にも精通してゐないことも明白であり、つまりこの本の監修者として失格である。

さて、4chan の創設者moot(プールのハンドル)は實際どう語つてゐるのか。

4chan is meant to be an unofficial sister site to 2chan.net, an amazing Japanese community that has been around for a long time.

http://www.4chan.org/news?all#2

この2chan.net とは、何か。そのリンク先は何になつてゐるか、堀江も譯者の竹内薫も、出版社ヒカルランドの編輯者青山恭子も、一度も訪れたことはないに違ひない(ヒカルランドは新興出版社で、精神世界などの分野の胡散臭い本を出すことで有名だが、ヒカルランド創業者は、元はあの徳間書店で精神世界本(超次元ライブラリーなど)を編輯してゐたといふから、ヒカルランド編輯者には確かな編輯技術があるはずである)。

本書、序文を堀江貴文はかういふ一文で締める。

そして、ネットを通じたさまざまな行動は、壮大な暇つぶしなのである。

もしかして堀江がかう語るネットについて書いたこの本の監修は、堀江にとつてお金儲けの道具であり、また暇つぶしの道具なのだらうか?

原著にも興味が湧いてきたので買つてみようかな、この本、まだほぼ序文しか讀んでないんだけど(氣になつて、Part1の 2章「「4チャン」とアノニマスの起源」冒頭の段落、「2ちゃんねるの2倍すごい」p52 をちよつと讀んでみたけど訣わからなくつて眩暈した)。かういふ誤解を下敷きに書かれた本、これから讀み進めるのが樂しみである。

あと、堀江貴文さんは、Twitter で『ゼロ』ばつかり宣傳せずに、この『我々はアノニマス』も少しは宣傳してくださいよー!