くわうほう

使ひます

『ドラゴンキラーあります』

海原育人『ドラゴンキラーあります』(C★NOVELS中央公論新社)を讀んだのだけれど、豫想外につまらなかつたので、その理由を書きたい。
つまらない理由を書くなんて、讀むほかの人に意味があるのか、とも思ふのだけれど、まあ、自己滿足といふことで。分析することは自分の力になる、と信じて。

正直言ふと、一度しか讀んでないので、思違ひがあるかもしれないけれど、許してください。ほかの人の感想を全然見てないので、的外れかもしれないけれど、許してください。

うまくいつてゐるものとして、浅井ラボされど罪人は竜と踊る』(ガガガ文庫)を思浮かべながら書いてゐるので、そんな感じで讀んでください。

以下ねたばれ


この小説の筋として、二つの柱がある。まづ、便利屋ココとドラゴンキラーのリリィのボーイ・ミーツ・ガール、つぎに、ココを苦しめるトラウマの原因となつたレクスの打倒。

ファンタジーとして妥當な、おもしろくなる題材だと思ふ。が、どうも、どちらをとつても、料理の仕方がうまくない。

ボーイ・ミーツ・ガールについて。主人公のココは、トラウマのこともあつて、ドラゴンキラーが嫌ひなのだけれど、その相棒として、ドラゴンキラーのリリィと仲間になる。
つまり、最初ココは、リリィを嫌つてゐるわけだが、段々と信頼し合ふ關係となるわけだ。かういふとき、起承轉結が重要となる。起「嫌つてゐる」承「段々と相手を知りたくなる」轉「何らかのどんでん返し(關係を破局に招く樣な大きな出来事とか?)」結「強い絆で結ばれた仲になる」みたいな。

さういふのが、強調されてゐないため、一本調子に思へる。最初から最後まで、ふたりの會話は同じ風で、行動も同じ風で、いまいち、ボーイ・ミーツ・ガールから連想される、甘酸つぱさといふのか、雰圍氣が傳はつてこない。なんか、唐突にはじまつた協力關係であるが、もうすこし、その、葛藤とかはないのか。だから、會話のよさがあるとしても、それが際立たないのだ。

つぎに、復讐譚について。主人公は復讐する。敵は、主人公にトラウマを植えつけた、「竜も素手で殺せる」といふ「超人」のなかでも認められた、最高級の強さである。わくわくする。どうやつて、この力量差を乘越えて、主人公たちはレクスを倒すのだらう。
このとき、重要なのは、謎解きだと思ふ。いや、べつに、ミステリがどうの、といふはなしではなく、レクスを倒す上での、謎。レクスの強さは、弱點は、策は……。
主人公のココは、頭を使ふ役、リリィはパワーキャラらしい。ので、當然、ココが作戦をたてるはづなのだが、どうも、この物語はをかしい。大雜把なのだ。
ココがたてる作戦は大雜把である。作中の行動も、行き當たりばつたり。その頭の良さを見せる場面は、あまり印象にない。そして、肝腎のレクス打倒作戦をたてたのは、ココではなく、途中で仲間になつた人物(ジン)だし。
そして最後、みごとレクスを倒したのだけれど、決め手となつたのは、リリィの行動であり、結局ココの活躍は目立たず。その間も、なんらレクスに對しての分析はなく、一應、弱點をついたかたちで倒したのだけれど、釈然としないオチだつた。
役がうまく分担できてゐない。ために、キャラクター小説として、うまくない。そして、ために、ストーリー小説としても、アクション小説としても、うまくない。

ストーリーも、はらはらどきどきするところはなく、なんとなく進んでゐる印象。ココのレクス打倒の動機は、前述した樣にかれのトラウマにあるわけだが、最初からレクスを倒さう、と思つてゐたわけではなく、長年追つてゐた、なんてこともなく、話の中にふいにでてきたレクスをどうしても倒したい、といふ強い思ひには見えない。

といふわけで、この二つの柱にはどちらも中途半端な印象をおぼえた。話の練り方があまく、まだまだ新人の習作といつた感じであつた。
二巻目を讀む氣がおこらない。